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農業、それは最も大切な仕事 2025/2026シーズン エピソード2 兵庫県 高井 淳匡さん

農業、それは最も大切な仕事 2025/2026シーズン

兵庫県 高井 淳匡さん

私たちBASFは、「農業、それは最も大切な仕事」というアドボカシー・キャンペーンを展開しています。農業の価値をより多くの人に届け、農業に従事する人々の“想い”を伝えていきたい──そんな想いを込めています。本インタビューシリーズでは、農業のあり方が急激に変化する今、志を胸に挑み続ける人々を取り上げ、農業の価値と未来への希望をお伝えしています。

第2回に登場いただくのは、農事組合法人あぐり~ど玉野 理事の高井淳匡さん。「汚れない・休みがある・儲かる」農業を目指し、徹底した効率化を進めてきた高井さんに、モチベーションの原点や効率化の工夫、“新しい農業のかたち”について伺いました。

●高井淳匡さんプロフィール●
兵庫県加西市で45ヘクタールの農地を管理し、水稲、小麦、大豆、飼料用トウモロコシを栽培。


現場から農業を変えるため、生産者に

――農業を始めたきっかけを教えてください。

高井淳匡さん(以下、高井):実家が農家だったわけではなく、高校卒業後にJA職員として働き始めました。16年間勤める中で、農家の大規模化が進んでいくのを肌で感じていたんです。「営農組合のあり方も、これからの時代に合わせて変えていく必要がある」と考えて上司に提案しましたが、思いは受け入れてもられず、異動を命じられました。そのとき、「生産者として農業を変えていこう」と決意し、異動辞令と同時に退職願を提出しました。33歳のときです。

退職後は、3年ほど個人事業主として花農家に挑戦しました。ただ、新規参入者にとって花農家の経営は難しく、次第に「土地利用型の農業がしたい」と思うようになり、あぐり〜ど玉野に入りました。


「もっと楽しい農業をしたい」――たどり着いた超効率化

――あぐり〜ど玉野が農地集約を進めているタイミングで加入されたのですか。

高井:そうですね。あぐり〜ど玉野は圃場整備と同時に立ち上がった組織で、集積率は100%。現在45ヘクタールを管理しており、一般的な集落営農のかたちです。

当初は35人ほどのオペレーターで田植えをしたり、苗を運んだりしていましたが、高齢化で人数が減り、「このままでは続かない。やり方そのものを変えなければ」と感じました。50年間まったく変わらなかった田んぼの作り方にメスを入れるような感覚でしたね。

私自身も移植栽培をしていましたが、田植えは本当に大変です。爪の間に土が入るし、長靴も履かないといけない。こうした“汚い・しんどい”作業を変えたいと思ったことが、効率化を追求するきっかけになりました。今では、5人のスタッフで回せる仕組みができています。


乾田直播で農作業の分散化を実現

――乾田直播も、効率化の流れの中で取り入れたのですか。

高井:そうですね。一番の目的は作業の分散です。農業はどうしても4~6月に仕事が集中します。当時は、毎日夜8時まで働き、全員でトラクターに乗って代かきをする生活が当たり前でした。でも、そんな働き方を続けたくなかった。「8時5時で帰れる農業」にしたい。そのためには作業の分散化するしかないと思い、乾田直播に挑戦したんです。

最初の年は草だらけで大変でした。ただ、圃場の条件を見ながら植える場所を変えたり、湿気の多い圃場を乾田直播に選んだり、試行錯誤を重ねていくうちに、少しずつ形になっていきました。

「節水型乾田直播だと減収するのでは」という声もありますが、今年はxarvio® HEALTHY FIELDSの指示通りに管理し、化学肥料を入れない有機の圃場で10俵以上を収穫できました。実際、作業の適期と照らし合わせても、幼穂形成期から水を入れるタイミングまで、すべてがぴったり一致していたんです。15年間、経験と勘でやってきましたが、xarvio® HEALTHY FIELDSを導入して2か月ほどで、「AIに負けたな」と思いましたね。

――十分な収穫量が得られているのは、土壌の状態も影響していますか。

高井:冬の間に消化液や堆肥の液を入れているので、その影響もあると思います。長年、乾田直播に適した肥培管理を続けてきたこともあり、今では安定的な収穫量を確保できるようになりました。

今後はxarvio® HEALTHY FIELDS for RiTAも活用したいと考えています。特に土壌改善AIサービス「Humus」について、「10年後の農地の地力に投資する」という考え方にとても共感しました。無用な窒素を投入すれば作物の生育を悪くするだけでなく、温暖化につながり、CO2も発生します。そのため、過度な施肥を避け、土本来のバランスを整えることが大切だと感じています。今年から早速その考え方を取り入れていくつもりです。

化学肥料の使用量を減らせることには、それ以外のメリットの可能性も感じています。水稲では、いまだに1反あたり40キロほどの化学肥料を入れていますが、作業負担が大きい。土壌が改善されれば、必要な化学肥料も減り、コストも下がるだけでなく、農作業そのものも楽になっていくと期待しています。


AIとコントラクターに任せる、“新しい農業のかたち”

――今後どのような農業を目指していますか。

高井: これからの農業は、「事務所で管理する農業」になっていくと思います。作業は可能な限りコントラクターや技術に任せ、私たちは現場に出なくても管理できる体制を整えています。そして、作業のマニュアル化も進めています。経験や勘に頼っていては、人材育成に5年も6年もかかってしまいますから。

その点、xarvio® FIELD MANAGER や xarvio® HEALTHY FIELDS のようなAI技術を活用すれば、新規就農者でもすぐに実践できます。私は、そうした“新しい農業のかたち”をつくっていきたい。「田んぼに入ってなんぼ」「苦労してこそ農家」という考え方も、これからは変えていきたいと思っています。

――「これからの農業」を実現するうえで、必要なことは何ですか。

高井:新規就農者の育成が急務ですが、同時にコントラクターも育てていく必要があると考えています。私たちが取り組んでいる超省力化の農業は、エアーアシストジャパンの椿さんにコントラクターとして、ほぼすべての作業を委託することで成り立っているからです。

椿祐樹さん(以下、椿): 弊社は世間一般には“ドローン屋さん”として認識されていますが、高井さんとの出会いを通じて「作物を育てる」という視点を学びました。単に作業を請け負うのではなく、農家さんを技術面でトータルに支える人材が求められていると感じています。

作業の中で特に感じたのは、「委託すること」の意識が農家さんの間で変わりつつあることです。最初は外部に任せることにためらいもあるのではと思っていましたが、実際には「ありがとう」と言われることが多く、驚きました。それだけ人手不足が深刻で、「任せたいけれど任せられない」というのが、これまでの現実だったのだと感じています。

株式会社エアーアシストジャパン 椿祐樹さん

今は、高井さんと「どう人を育てるか」「仕組みとしてどう定着させるか」を日々話しています。実際にザルビオを活用し、ドローン・AI・委託型農業を組み合わせた新しい農業参入モデルの実証にも取り組んでおり、農業未経験者でも参入できる仕組みづくりを進めています。


人材育成で農地を守る仕組みをつくる

高井:今は、初期投資がほとんどなくても農業を始められる時代です。トラクター1台あれば、AIやコントラクターの活用で10町を回せます。以前のように数千万円の借金をして設備を整える必要はありません。参入のハードルが大きく下がったのは本当に大きいと思います。

うちは規模拡大はやめて、人材育成に全振りしています。規模を広げすぎると、誰かが辞めたときに他の従業員の負担が一気に増えて、結局「休みなしの農業」に逆戻りしてしまう。それよりも、一人ひとりを育てて、10ヘクタール規模の農家を100人育てる。そうすれば合計で1,000ヘクタールの農地を守れますし、誰かが抜けても仲間同士で支え合える。そうした仕組みづくりが、これからの農業を支える鍵だと思っています。

収量についても同じです。1反あたり600~700キロの高収量を目指すよりも、単収300キロでも徹底的にコストを下げ、持続的に1,000ヘクタールを守れる作業体系をつくること。そうした持続可能な農業を設計を目指さなければ、この先の時代に農地を守り続けるのは難しいと感じています。


農業は、これから一番伸びていく産業

――将来の農業について、どのような展望を描いていますか。

高井:未来の農業は、もっと楽しくなっていると思います。人口構造の変化や技術の進歩はこれからも続きますし、AIやロボット、ドローンなど、これまで想像もできなかったような仕組みが現場に入ってきています。ドローンがコンバインの代わりに収穫する未来も近いかもしれません。そんなことを考えると、農業の未来はとても明るいと感じます。実際、現場にいる身としても、これから一番伸びていく産業は農業だと思っています。

私にとって農業は“生きがい”です。同じことを繰り返すのではなく、毎年必ず何か新しいことに挑戦できる。農業には終わりがなく、成長のチャンスがあります。

この仕事をしていなかったら、65歳で引退したいと思っていたでしょう。でも今は本当に楽しくて、「死ぬまで農業をしていたい」と思えるほどです。これからも新しい挑戦を続けていきたいですね。

※この記事は2025年に取材されたものです。